例えば、「歩くことで膝痛が悪化してしまった」という体験を有したクライアントが入院しており、歩くのが怖いため病室内を少し歩く以外は、ほぼ寝たきり状態が続いているとする。
この様な人のセルフエフィカシーを何とか正常な状態にまで高めるためにも、段階的暴露が重要となる。
その際の前段階として、「そもそも膝へ荷重をかけること自体が大丈夫な人なのか」という点を考えならないが、病室内を少しは歩いていることから、少なくとも膝への荷重が全く不可能な人ではないことが分かると思う。
そこから、段階的暴露として、立位あるいは短距離の歩行(平行棒内でも構わない)から始めていく。
ここでは認知行動療法の観点からの解説なので、膝痛に対する詳細な評価はすっ飛ばしているが、ここでの立位や歩行練習は運動機能(バランス・筋力・歩行能力など)に働きかけているというよりは、「痛くなるから歩いてはダメだ」といった認知バイアスに働きかけているということになる。
そして、痛みが出現しない程の量を、痛みが出現しない程ほどの回数で実施して終了する。
これを繰り返していくことで、段階的暴露が進み「痛くなるから歩いてはならない」から「この程度なら歩いても大丈夫」という具合に認知が修正されていくことになる。
ポイントは、「不活動にも、過活動にもならない丁度良い負荷量」を見つけることにある。
以下は、「(腰痛を例とした)活動強度と痛み発生リスク」を示した図だが、
この図における『軽度運動=低リスク』に上手く合わせることが出来るかどうかが成功の秘訣となる。
画像引用:ペインリハビリテーション
また、段階的暴露療法によって、認知が修正されるだけでなく、膝の痛みが不活動によって生じることもあり得るので、無理のない範囲での活動を繰り返すことで、痛みにおける感覚的側面である疼痛耐性も向上していく可能性は十分にあり得ることかもしれない。
活動強度は、強すぎても、(極端に)弱すぎても痛み発生リスクを高めてしまう。
「痛みが強い際には安静に」というのはイメージしやすいかもしれないが、「不活動によって痛みが起こる」というのは知られていなかったりするので覚えておこう。
画像引用:ペインリハビリテーション
※神経系の感作・可塑的変化については以下も参照。
HP:感作(末梢性感作・中枢性感作)と脳の可塑的変化を徹底解説!
※不活動によって生じる弊害は『廃用症候群(生活不活発病)』と呼び、疼痛誘発のみならず様々な弊害を身体へ及ぼす。詳しくは以下でも解説しるので参考にしてみてほしい。
生活不活発病って何?廃用症候群と違うの? 徹底解説します!
廃用症候群の恐怖とは!{高齢者のリハビリ/看護/介護で必須の知識}
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例えば、「腰を反らすと痛みが誘発される」と思い込んでいる人に対して、徐々に腰椎伸展の動きを入れていき認知バイアスを修正していくという手法も段階的暴露療法に該当すする。
これらの考えは以下の記事も参考になると思う。
認知行動療法が理解できる!「腰痛・治療革命」(書籍:脳で治す腰痛DVDブック)を紹介
認知行動療法は腰痛に効果があるのか?
認知行動療法についての概要を知りたい方は以下のサイトを参照。