この記事では腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)について、作用・筋力トレーニング・ストレッチングなどのリハビリ(理学療法)も含めて記載していく。

 

※この記事では、腸腰筋(iliopsoas muscle )の中のでも特に『大腰筋(psoas major muscle )』にフォーカスして記載している。

 

目次

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腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)の基礎情報

 

腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)の基礎情報は以下となる。

 

筋名

起始

停止

作用

神経

腸骨筋

腸骨の上縁と腸骨窩

 

大腰筋の前内側面

大腿骨の小転子

股関節の屈曲

腰神経叢と

大腿神経の筋枝

(T12~L4)

大腰筋

浅頭

⇒第12胸椎から第4腰椎の椎体と第1~4腰椎の肋骨突起

 

深頭

⇒全腰椎の肋骨突起

大腿骨の小転子

股関節の屈曲

 

※詳しくは後述する。

腰神経叢と

大腿神経の筋枝

(T12~L4)

 

※大腰筋は腰椎に沿って下行し、鼠径靭帯の下を通って小転子に付着している。

 

※腸骨筋は筋裂孔に向かって収束し,大腰筋の外側に接して小転子に停止する。

以下は大腰筋
大腰筋
以下は腸骨筋
腸骨筋
大腰筋と腸骨筋
大腰筋と腸骨筋2

 

 

大腰筋の起始部・停止部

 

大腰筋は前部線維後部線維(深部線維)に分けられる。

 

前部線維:

第12胸椎~第4腰椎の椎体+椎間板の側面から起こる

⇒股関節屈曲や腰椎屈曲・側屈に作用

 

後部線維(深部線維):

第1~5腰椎の横突起から起こる

⇒腰椎前彎位にあれば腰椎伸展・側屈に作用する

 

 

腸腰筋の筋連結

 

腸腰筋の筋連結は以下の通り

 

腸骨筋:

⇒大腰筋(腱)、大腿筋膜張筋(筋膜)、恥骨筋(腱)と連結

 

大腰筋:
⇒腰方形筋(腱膜)、横隔膜(腱膜)、腸骨筋(腱)、小腰筋(腱膜)と連結

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大腰筋の特徴

 

基本情報に記したように大腰筋メジャーな作用は「股関節の屈曲」である。

 

その他にも様々な作用が言われており、オーチスのキネシオロジーでは以下のようにまとめられている。

 

作用
股関節屈曲⇒エビデンスあり
股関節外旋⇒エビデンスあり
股関節内旋⇒エビデンスなし
腰椎屈曲⇒諸説あり
腰椎伸展⇒諸説あり
腰椎の安定⇒エビデンスあり

 

 

※さらに、体幹側屈運動に関与しているとのエビデンスもある。

 

ここから先は、大腰筋に関して「股関節における作用」と「腰部における作用」の2つに分けて、もう少し詳しく解説していく。

 

 

大腰筋の股関節における作用

 

ここから先は、大腰筋の作用に関して記載ていく。

 

股関節外旋作用に関して:

 

前述した一覧表において、大腰筋は屈曲作用の他に、外旋作用があることが分かっている。

 

ただし一方で、大腰筋が担う外旋作用は非常に小さいとも言われている。

 

あるいは、筋力トレーニングにおいても考慮されることは少ない。

 

※逆に、屈曲・外転・外旋運動によって、腸腰筋の活動を縫工筋が代償していないか注意することはある。)

 

 

立位姿勢における腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)の筋活動に関して:

 

直立姿勢において、一般的に頭・腕・体幹の重心は、股関節の屈伸軸より後方にあるため伸展モーメントが生じる。

 

従って、(理屈としては)直立姿勢を保持するためには、持続的に股関節屈筋群の収縮が必要ということになる。

 

ただし、その際に活動する筋活動は非常に小さく、随意性収縮の2%で構わないとする文献もある。

 

 

腸腰筋の筋活動が高まる股関節屈曲運動:

 

腸腰筋は、股関節を屈曲する作用がある。

 

従って、SLR運動で高く下肢を挙上した際や、股関節の屈曲を伴う腹筋運動の後期、足踏みなどの股関節深屈を伴う運動で活動性が高まる。

 

※SLR運動は、膝伸展筋力向上という側面もあるが、それ以上に股関節屈曲筋力向上という側面のほうが強い場合もある。

関連記事⇒『SLR運動のメリット・デメリット

 

 

腰部における大腰筋の作用

 

大腰筋は、腰椎の屈曲や伸展(腰椎前彎)に作用すると一般的に言われているが、厳密には諸説あるようだ。

 

そして、個人的には「腰椎の肢位(屈曲位か伸展位(前彎位)かによって、どちらにも作用するのでは?」と思っている。

 

例えば背臥位での腹筋運動(仰向けの状態かから、腹緊を収縮させつつ上体を持ち上げる)の際では腹筋運動後期になるほど腸腰筋の活動が有意となっており、この筋活動によって「(股関節の屈曲のみならず、腹直筋と共調して)腰部屈曲作用の補助」もしていると考えられる。

 

つまり、このケースでは「腸腰筋の腰椎屈曲作用がある」という事が分かる。

 

以下の動画は腹筋運動だが、腰椎後彎位で腸腰筋も腹直筋や大腿直筋と共調して収縮しているのを視覚的にイメージしやすい。

 

 

ただし、この動画の秀逸な点は、4分20秒以降からである。

 

ここからの動画は「腰椎が前彎したままで腸腰筋が収縮しながらの腹筋運動」という変則的な動きを分かりやすく示している。

 

そして、この様な「腰椎前彎位をキープしながらの腹筋運動」には腸腰筋が「股関節の屈曲筋」+「腰椎の伸展筋(っというより伸展いでキープするための筋)」という2つの作用を起こしていると思われる。

 

つまり、このケースでは「腸腰筋の腰椎伸展作用がある」という事が分かる。

 

 

つまり、この動画で言いたいことは以下となる。

 

『腰椎が前彎位で収縮するか後彎位で収縮するかで、腰椎の屈曲にも伸展(っというか前彎位保持)にも働くことのではないか』

 

そして、この様に「肢位によって作用が逆転する筋」は他にも存在し、その例えは以下を参照してほしい。

関連記事⇒『胸鎖乳突筋は肢位によって作用が違うよ

 

 

腰部における、その他の腸腰筋の運動としては以下が確認されている。

  • 側臥位で体幹を起こす際に求心性収縮が起こる
  • 立位で対側に側屈にする際に遠心性収縮が起こる

 

 

腰部における安定化作用(ローカル筋としての役割)

 

前述した「腰部における大腰筋の作用」は、「グローバルマッスルとしての作用」にフォーカスを当てて記載している。

 

一方で大腰筋は「ローカルマッスルとしての作用」も持っており、こちらの方が重要だとする意見もある。

 

つまりは腰椎の安定化作用である。

 

大腰筋は主に椎体側面に付着していることから、両側性の収縮により(各椎体を尾側へ引き下げ腰椎圧迫されることにより)前額面上の腰椎安定性を高めることが言われており、中でも大腰筋後部線維が腰椎安定性に関与しているとされている。

 

つまり大腰筋は、「グローバルマッスルとしての役割(股関節屈曲や腰椎屈伸作用)」と「ローカルマッスルとしての役割(腰椎の安定化)」の両方の性質を持った珍しい筋であると言える。

 

大腰筋の中で後部線維が腰椎安定化に関与していることが報告されている。

 

大腰筋は腰椎に直接付着するが、脊柱から離れた背には他分節を跨いでいるため、ローカル筋とグローバル筋の両者の役割を持つと考えられる。

 

多分節にわたる線維の収縮によって腰椎が前彎していれば前彎を強くする方向である腰椎伸展運動が生じ、後彎していれば屈曲方向に運動する。

 

これは胸鎖乳突筋が頭部の位置によって頸椎屈筋としても伸筋としても作用することと同じである。

 

このようい関節のアライメントによってグローバル筋の働きは変わるため、関節近傍のローカル筋の役割が重要となる。

腰痛の病態別運動療法

 

そして、腰部の機能異常が出現している際は、このローカルマッスルの作用が仇となって「(腰椎前彎位で)椎間関節に過剰な圧縮応力」が働いてしまい、腰痛を招くこともがあるかもしれない。

 

あるいは、急性腰痛(椎間板ヘルニアも含む)では、「寝返りの際に、股関節屈筋群を少し収縮しただけでも腰部に激痛が走る」といったことが起こる場合があるが、それは「股関節屈曲筋である腸腰筋が収縮し、腰部へ圧縮応力が加わるためだ」と指摘している人もいる。

 

※そうなってくると「いかに、自動的な股関節屈曲を避けるか」ということが、急性期の腰痛の軽減につながるかもしれない。

 

※車の乗り降りなどにおける、股関節の屈曲動作も同様。

 

そして、腸腰筋以外にも「(意識・無意識にかかわらず)収縮させてしまう事によって腰部へ圧縮応力を加えてしまうローカルマッスル)」はいくつも存在していると考えられ、そうなってっくると「いかにコアを脱力させながら動くか(寝返る・起き上がるなど)」が激痛から逃れるためのポイントと言える。

 

※普段は非常にお世話になっているコアマッスルが、こういう時には仇となることを、数日の間は体感することとなる。

 

※ちなみに私はぎっくり腰にはなったことは無いが、「寝違え」による頸部痛で同じような体験をしたことがあり、この主張は非常に理解できる。

 

※実際には腰椎に付着する様々な筋・靭帯・関節包などがぎっくり腰によって損傷し、それが腰椎に付着している筋が収取することで(圧縮応力のみならず、様々な)刺激を受けることで痛みが起こると考えられている。

関連記事⇒『急性腰痛の対処法を解説

 

 

大腰筋のコアトレーニングとしての活用

 

何だか大腰筋の腰椎安定に関して負の側面ばかりフォーカスしてしまったが、このブログではコアマッスルの重要性について様々な記事で言及しているので、敢えて省いてみた。

 

ただし、大腰筋による「腰椎安定化」というのは重要で、この「腰椎を生理的前彎位でキープ出来る」といった機能をコアトレーニングでも活用していくことは可能と言える。

 

例えば、端坐位で膝を伸展する際、ついつい腰椎を後彎して代償してしまいやすい。

 

それを(腸腰筋を働かせ)骨盤前傾・腰椎の生理的前彎をキープしつつ繰り返すと、立派なコアエクササイズになる。

 

※もちろん大腰筋だけでの選択的トレーニングというわけではなく、他のコアマッスルも連動して収縮している可能性が高い。

 

あるいは、ピラティスでも「腰椎がついつい後彎しそうな動き」を、あえて「腰椎の生理的前彎をキープしながら実施する」といった動きが用いられる場合があり、そんな運動の際は他のコアマッスルと連動して大腰筋も活動していると思われる。

 

※ピラティスでは、この様に大腰筋のローカルマッスルの機能(腰椎の安定化機能)を働かさせながら、尚且つグローバルマッスルの機能(股関節の動き)も働かせるという器用な動きが要求されることも多々あり(もちろん柔軟性など様々な機能が要求される)、であるからこそトレーニングとしては面白い。

 

以下はセラバンドを用いたピラティスとなる(かなり難易度の高いエクササイズになってしまっているが、伝えたいことが分かってもらえると嬉しい・・・)。

 

関連記事⇒『セラバンド!高齢者にも使えます

 

そんなことも考えながら以下の記事を観覧してもらうと、(大腰筋も含めたコアマッスルへの)理解がさらに深まると思う(上記の動画よりも難易度を下げた運動が中心なので臨床でも使いやすいと思う)。

関連記事⇒『インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニングを解説

 

 

腸腰筋と日常動作

 

リハビリ(理学療法)に直結した記事になってない気がするので、日常生活における腸腰筋の活動にもフォーカスを当てておく。

 

例えば、腸腰筋の筋力低下は股関節を屈曲しにくくさせるため、「浴槽のまたぎ動作」「階段や段差の昇降動作」を困難にして転倒のリスクが高まる。

 

一方で、歩行の遊脚期は股関節が屈曲するので大腰筋の十分な活動が必要と思われがちだが、(単純にフラットな平地歩行しているだけであれば)腸腰筋の筋力をほとんど使用しないため、筋力低下の影響を受けにくいと言われている。

 

その理由は『歩行時の遊脚期には股関節の屈曲を振り子の原理で代償するから』だとされている。

 

具体的には「遊脚相における骨盤挙上により位置エネルギーが蓄積され、下肢全体が振り子のように前方に振り出されるため、本来なら腸腰筋で必要なはずの筋力を補完するのから」とされている。

 

股関節屈曲運動は正常歩行の重要な要素であるが、必要とされる股関節屈曲の筋力は比較的小さい。

 

したがって、大腰筋に軽度もしくは中等度の筋力低下が生じても、歩行における影響はわずかである。

オーチスのキネシオロジー 身体運動の力学と病態力学 原著第2版より~

 

補足をすると、歩行に必要な様々な部位の筋力は「最大筋力の極僅かな収縮で充分」とされている。

 

例えば以下の2つの動画をみてほしい。

 

推進力があれば動力源(人間で言うところの筋力)が無くとも、このロボットは歩けてしまう様である。

 

 

 

同じ理屈で動く以下のロボットも観覧してみてほしい。

 

このロボットを一度で良いから歩かせてみたいと思うのは私だけだろうか?(笑)

 

 

 

一方で、大殿筋は重度な麻痺を呈すことで「大殿筋歩行」といった特異的な破行が起こり、中等度な筋力低下でも歩容に大きな影響を与えると言われている。

関連記事⇒『大殿筋の機能を解説します

 

あるいは中殿筋も弱化していると、歩行時の側方安定性が低下してしまい「トレンデレンブルグ徴候」「ドゥシャンヌ徴候」といった現象が起こってしまうと言われている。

※前述したロボットも、側方にはブレない様な作りになっている。

関連記事⇒『中殿筋の機能を解説します

 

腸腰筋の役割、作用の話はこれくらいにして、ここから先はリハビリ(理学療法)について記載していく。

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大腰筋の触診

 

大腰筋の触診としては以下の様な方法がある。

 

・患者は股関節と膝関節を軽く曲げて背臥位をとる。

 

・上前腸骨棘と臍(へそ)を確認し、この2点を結ぶ線をイメージする。

 

・大腰筋はこの2点を結んだ線の中間で腹直筋の外側に存在する。

 

・大腰筋をみつけたら徐々に手指を筋の中に沈めていく。

※その状態を評価する患者の反応には注意する(過敏になっている場合がある)。

 

・本当に自身が触診している筋が大腰筋かどうかの確認として「軽く股関節の自動屈曲してもらう(足踏みの要領で)」とハッキリする。

 

※もし大腰筋を触診しているのであれば、股関節の屈曲で収縮するので、触診している手指が筋腹によって弾かれるような感触が得られる。

 

 

腸腰筋(大腰筋)の筋力トレーニング

 

ここから先は、腸腰筋の中でも『大腰筋』にフォーカスを当てて、筋力トレーニングを記載していく。

 

※ただし、腸骨筋の筋力トレにもなっている。

 

大腰筋は股関節深屈位で活動性が高まりやすいとされており、それらの特性を参考にした座位・立位の2パターンを記載していく。

 

 

座位での腸腰筋(大腰筋)トレーニング

 

端坐位で「足踏み」をすれば多少大腰筋が活動していると思われ、簡便なため臨床においても高齢者に指導することがある。

 

そして、端坐位での足踏みは必然的に「ある程度股関節が屈曲した状態からの」屈曲運動であることからも大腰筋の活動として優秀である。

 

ちなみに、足踏みは股関節の等張性収縮なため、大腰筋の中でも「前部線維」の筋活動が高まっている可能性が高く、そいう意味では「大腰筋のアウターマッスルのみ活動している」という事になるのだろうか?

 

実はそんなことは無く、大腰筋後部線維の活動も高まっている可能性が高く、つまりは「大腰筋のインナーマッスルとしてのトレーニング」にもなっているということになる。

 

ただし、足踏みで大腰筋後部線の活動も動員させるには、注意しなければならない点がある。

 

その注意点こそが「腰椎の生理的前彎をキープした状態」での足踏みである。

 

要は、「猫背のまま足踏みをする」というのは、コアトレーニングとなっていない。

 

※理由は繰り返し前述してきたので、ここでは割愛する。

 

また、腰椎前彎をキープするということは運動連鎖として骨盤前傾位になる必要があり、「骨盤が前傾位である」ということは相対的に「股関節が屈曲位である」ということを意味し、この点は「大腰筋は股関節が深屈位であるほど筋活動が高まる」という特性からも、重要と言える。

 

※骨盤傾位での端坐位より、骨盤前傾位の端坐位での足踏みの方が、「股関節の屈曲角度が深い状態からの足踏み(屈曲運動)」ということになる。

 

それでは、早速「骨盤前傾位での足踏み」と「骨盤後傾位(猫背)での足踏み」を以下の点に注意しながら体感して比べてみてほしい。

 

  • 可能な限り高く足を挙げる(エンドレンジギリギリまでしっかりと屈曲する)
  • ゆっくりと足踏みをする

 

恐らく「骨盤前傾位での足踏み」のほうがトレーニングになっていることを実感できるのではないだろうか?

 

(腰椎の生理的彎曲を保持したまま)最大限に足を挙げる(深く屈曲する)というのは重要なポイントであり、「単に足踏みすれば良いのだろう」という考えでは十分に効率的な腸腰筋トレーニングになっていない可能性がある。

 

また、少し手法を変えて以下のイラストのような方法を織り交ぜても良いかもしれない。

大腰筋の筋力増強
これは、「自分の膝を抱えるようにして他動的に最大限股関節を屈曲させた肢位をとり、その位置で手を放し、なるべく深屈曲位をキープしてもらう」という方法(大腰筋の等尺性収縮)である(もちろん骨盤が後傾しないよう注意する)。

 

※他動的運動と自動運動の最終域では差(弾性域)があるので、手を放した時点で若干屈曲は浅くなるが、なるべくその状態をキープするという事。

※弾性域に関しては『自動運動・他動運動とは?』も参照

 

 

立位での腸腰筋(大腰筋)トレーニング

 

立位で以下のエクササイズが実施できるだけの運動機能を有しているのであれば、座位よりもおススメである。

大腰筋の筋トレ

イラストの台は、「ふらついた際にすぐ足が接地できるように」あるいは「股関節屈曲位からすぐにトレーニングできるように」といった意味があるが、別に無くても構わない。

 

イラストの様に屈曲していき、「最大屈位での等尺性収縮」あるいは「最大屈曲位付近での5~10°の範囲内での屈伸(っというか振幅に近い)」を実施する。

 

大腰筋が弱化している人であれば、大腰筋の筋活動が高まって短時間で容易に疲弊してしまう(運動を維持できなくなる/筋がプルプル・ガクガクし始める)のを実感できると共に、実施直後も1分程度はジーンとした筋疲労の余韻が残る。

 

注意点は端坐位でのトレーニングと同じく以下の通り。

  • 「単に90°以上屈曲すれば良い」ではなく「最大限屈曲する」
  • 腰椎生理的前彎が崩れないようにする。

 

 

端坐位でのトレーニングとの違いは以下になる。

 

  • (対側の股関節が屈曲していないので)端坐位よりも腰椎の生理的前彎を保持しやすくなる。

    ※ただし、片脚立位保持の際に猫背になる人もいるので、やはり生理的前彎を意識する必要がある。

 

  • 対側下肢のみで荷重しているので、(股関節周囲筋を含めた)下肢筋力(+バランス能力)の強化も効率良く実施できる。

     

    片脚立位が可能な能力が必要なため、不可能であれば壁に手をつくなど支持物に頼っても構わない。

     

    しかし、支持物に頼るかどうかで「大腰筋の疲弊具合(つまり筋活動)が大きく異なってくる」ので、片足立ちができるのに敢えて支持物に頼ることはおススメしない。

     

    このトレーニングを単なるアウターマッスルのリハビリと考えると、支持物を把持していようがいまいが筋活動に大きな変化は無いように思うかもしれないが、インナーマッスルのリハビリと考えると、支持物を把持しないことによって『腰椎の生理的彎曲をキープするために腰椎の安定性向上』といった機能も上乗せされる。

    つまりは、大腰筋のコアマッスルとしての機能も(他のコアマッスルと一緒に)強化される。

 

 

前述したように、大腰筋は(重度に弱化しない限りは)歩行には影響を及ぼさないとされている(他の機能障害と混合して弱化している場合は別として)。

 

なので健常者であっても、意外と上記に示した「立位での大腰筋トレーニング」をしてみると、直ぐに腸腰筋が疲弊してしまい「股関節最大屈曲位」をキープできない人もいる。
是非、観覧している人達も、自身の腸腰筋が弱化していないかを確認してみてほしい。

 

 

腸腰筋(大腰筋)トレーニングの応用

 

また、「股関節最大屈曲位付近での屈伸振幅」を作用するのであれば、矢状面上での振幅だけでなく、「(最大屈曲+)外転位での屈曲振幅」や「(最大屈曲+)内転位での屈曲振幅」といったように角度を若干変えると、より機能的な大腰筋の収縮を学習できる(骨盤ニュートラルは忘れずに!)。

 

※もちろん、他の股関節屈筋群である腸骨筋・大腿直筋・大腿筋膜張筋も活動するが、それらも含めた機能的な収縮を学習していく。

 

 

腸腰筋(大腰筋)を鍛える理由

 

基本情報でも記載したが、大腰筋の作用の中でも特に重要なのが「体幹の安定化」である。

 

そして、「体幹の安定性」に関しては、ここで記載した大腰筋(+αとしての股関節屈筋群)の特異的なトレーニングを実施しても構わないし、もっと機能的な手法としては「他のコアマッスルと一緒に活動させていく方法」でも構わない。

 

※詳しくは以下を参照(コアマッスルの重要性も記載されている)。

⇒『インナーマッスルの段階的トレーニングを解説』  

 

だたし、大腰筋にはもう一つ重要な役割があるとされ、それは『股関節の安定化作用』である。

 

これは、「股関節の屈曲角度が浅い状態での活動(あるいは肢位)」で顕著であり「大腿骨頭を関節窩へ引き付ける作用がある」とも言われている。

 

※この作用については、言及しすぎると終わらなくなるので冒頭の「大腰筋の作用」には記載せず割愛した。

 

つまり、「股関節に不安定性」に対する大腰筋のトレーニングは、他の股関節周囲筋と共調して「(多少なりとも)股関節を安定化させる可能性」がある(非収縮性組織による安定化の破綻を、収縮性組織でどれだカバーできるかは議論がわかれる←特に股関節)。

関連記事⇒『関節副運動を補足します

 

そして、「股関節の安定性」に着目した場合、このトレーニングで果たして股関節の安定性は高まるのか?といった疑問がわいてくる人も多いのではないだろうか?

 

その疑問が湧いてくる一番の理由は、ここに記載したトレーングが機能的とは思えないトレーニングであるからだと思われる。

 

つまりは、「そもそも、股関節を深屈曲した状態で関節不安定性を感じる場面が、日常生活で一体どの程度あるのか?ほとんど無いではないか?であれば機能的なエクササイズとは言えないのではないか?(特異性の原則からは外れるのではないか)」という疑問が起こってくるのは当然と言える。

関連記事⇒『「過負荷の原則」と「特異性の原則」を解説

 

確かにその通りなのだが、結論を言ってしまうと、 股関節深屈曲位でのエクササイズの目的は股関節の安定化も含まれている と言える。

 

その根拠は、エビデンスと言うより経験則に基づくものなので恐縮なのだが、股関節の不安定性に大腰筋が関与している場合は、「圧倒的な筋萎縮・筋出力の低下を伴ていることが多い」という点にある。

 

※「腸腰筋の弱化によって不安定性が起こっている」のではなく、「不安定性(+痛み)により反射的な筋抑制によって腸腰筋が弱化し、それが更に不安定性を助長しているという悪循環が起こっている」といった表現の方が正しい印象を受ける。

 

そして、(少し乱暴な表現になってしまうが)「圧倒的な筋肥大・筋出力の向上を図ってしまえば、それが特異性の原則にはずれた手法であろうと一定の変化は起こせる」という考えに基づく。

 

※当然、腸腰筋以外(例えば、股関節周囲筋群など)にも着目しながらアプローチしていくこととなる。

 

もちろん、関節疼痛が起こるの出れば、そのトレーニングは非適用となる。

 

※ただし、よく「腸腰筋の疲弊」を「痛み(関節痛)」と混同した発言をクライアントがする場合があるので注意する。

 

※弱化した腸腰筋がトレーニングされて疲弊してた際の感覚は、「爽快」ではなく「不快」だったりする。

 

※実際には、不安定性の改善は大腰筋だけではなく他の筋群に対する(あるいは複合的な)トレーニングも織り交ぜていくのが一般的であるが。

 

※関節不安定性は若年~中年で起こっている症状を想定している。

 

※高齢者の(関節不安定性も伴った)変形性股関節症は想定していない。

 

 

腸腰筋による大腿骨頭中心化トレーニング

 

ここに記載したシンプルなトレーニングは、ブログレベルでも表現しやすく、活用もしてもらいやすいとの思いから記載ししている。

 

一方で、もっと緻密な「(大腿骨頭の中心化を含めた)股関節の安定化を図るための腸腰筋トレーニング」は存在し、ブログでも(紹介レベルであれば)記載できなくもないが、言及していない。

 

理由は「臨床で実践しようにも、クライアントが理解しにくく、使いづらい」から。

 

※特に大腿骨頭の中心化エクササイズなどは上腕骨頭の中心化よりも何倍も分かり難い(私自身でもピンときにくい)。

 

※十分なエビデンスもない。

 

そして、他のコアエクササイズにも言えることだが、厳密性・緻密性を追求しすぎると(クライアントが理解しにくい場合は)ストレスが溜まってしまいノーシーボ効果に結びつくこともある。

 

※十分なボディーイメージ・体性感覚が備わっている(あるいは必要とされる)アスリートに実践するなら、これらの要素は重要となるかもれないが。

 

でもって、臨床では「単純で理解しやすく、変化も分かりやすいトレーニング」の方が(病院や施設で理学療法を実施する場合において)指導しやすいといった印象を個人的に持っている(なので割愛した)。

 

だが、そういうエクササイズを知りたいと思っている人もいると思うし、私よりもセンスがあって使いこなせる人が観覧している可能性もあるので、別の機会に(気が向いたら)記載してみようと思う。

 

 

股関節伸展域での等張性収縮

 

大腿筋膜張筋の項目でも述べているように、歩行時における股関節伸展領域での腸腰筋の遠心性収縮は重要であり、これが機能していないと大腿筋膜張筋の代償によってこちらも機能不全に陥る可能性がある。

 

従って、股関節伸展域を含んだ腸腰筋での遠心性収縮としては以下の方法がある。

 

本来であればCKCのほうが機能的なのだが、その前段階(あるいは併用しての)トレーニングという事になる。

 

腸腰筋のリハビリ(理学療法)
腸腰筋の筋力トレーニング

 

歩行における立脚後期の安定性にも腸腰筋の遠心性収縮は重要となってくるため、前述したイラストを遠心性に実施する手法も(OKCのトレーニングで機能的とは言い難いが)実施してみる価値はある。

 

ただし注意点として、股関節前方に不安定性がある場合は、このトレーニングによって大腿骨頭の腹側変位を助長しやすく、症状が悪化するリスクがあるため、その点も踏まえて活用して頂きたい。

 

例えば、(不安定性があることによって)この運動によって股関節にクリック音などが出現する場合は、繰り返すことで腸腰筋腱炎や滑液包炎に結びつくリスクもあるので注意してほしい(一つのアイデアと記載しただけである)。

 

「股関節への負担を軽くする」という意味合いを持たすのであれば、SLR運動をスローで実施する(挙上した下肢をゆっくりと降ろす)ことも、腸腰筋の遠心性収縮という意味で機能する。

関連記事⇒『SLR運動のメリット・デメリット

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弾発股・腸腰筋腱炎

 

余談として、弾発股についても記載しておく。

 

弾発股という用語があり、(多くは大腿筋張筋由来のものを指すが)その中でも腸腰筋腱が関与している場合は、股関節前面に違和感・不安定感・轢音・痛みが生じる場合がある。

 

そして、その様な症例に対して前述した「立位での腸腰筋トレーニング」といったシンプルなエクササイズを繰り返すことによって、腸腰筋腱が原因と思われる股関節前面の痛みや弾発股、関節不安定性が改善することが改善することがある。

 

多少の段階的な負荷のかけかたや注意点といったコツが必要だし、+αとしてのエクササイズや日常指導も重要となってくるのだが、ここに記載してある情報を知っておくだけで色々と活用できると思う。

 

一方で、当然のことながらある程度進行した変形性膝関節症の中には、この様なアプローチで逆に症状悪化させてしまう場合もあるので、何事も杓子定規に当てはめず、ケースバイケースで活用していくという事になる。

 

 

復習も込めて、腸腰筋の動画を掲載

 

最後に腸腰筋と関節の動きを分かりやすく示した動画を添付して終わりにする。

 

ここまで記載してきた内容の復習もかねて観覧してみてほしい。

 

 

この記事では「腸腰筋」のなかでも「大腰筋」にフォーカスし、「腸骨筋」による特異的な作用に関しては言及していない。

 

しかし、腸骨筋には、「股関節屈曲」の反作用として「骨盤前傾作用」があり、上記動画の1分40秒くらいからは腸腰筋と大腰筋が連動して「骨盤前傾+腰椎前彎」の運動が分かりやすい。

 

そして、「骨盤前傾運動」は多裂筋とともに腸腰筋も賦活させる可能性がある。

 

関連記事

⇒『多裂筋と骨盤前傾運動

⇒『運動連鎖の魅力と限界

 

 

腸腰筋(大腰筋/腸骨筋)のリハビリ(理学療法)関連記事

 

腸腰筋のストレッチングについては以下でも言及しているので、こちらも参考にしてみてほしい。

 

『Thomas test』を活用した腸腰筋ストレッチングを紹介

 

 

腸腰筋は重要な体幹インナーマッスルであるが、(腸腰筋を含めた)インナーマッスルのまとめ記事が以下になる。

体幹インナーマッスルのトレーニングについて興味がある方は、こちらも合わせて観覧してみてほしい。

 

インナーマッスルの段階的トレーニングを紹介!