この記事では「仙腸関節障害によって起こる痛み(関連痛含む)」の治療に関して、リハビリ(理学療法・作業療法)も合わせて記載していく。
※仙腸関節障害のリハビリ(理学療法)としては、どちらかというとスタンダードな考えを基準に記載している(関節モビライゼーションについても、簡易版ではあるが掲載している)。
※仙腸関節障害は、関連痛として腰部や下腿にも症状が派生することもあるため、興味が出たら本格的なモビライゼーションも勉強してみてほしい。
目次
仙腸関節障害の特徴
仙腸関節は腸骨と仙骨をつなぐ滑膜関節であり、その関節包には侵害受容器が存在し、疼痛の発生源となる。
しかし、仙腸関節の可動域は小さく、画像検査によってその障害を認めることは困難であるため、医療機関では仙腸関節の機能障害は軽視されることがある。
腰痛の原因の一つに仙腸関節障害がある。
多くの整形外科医は、ほとんど可動性のない仙腸関節が病態になることは少ないと考えているため、代替医療者が仙腸関節障害の説明によく使う“骨盤がずれている”という言葉に過敏に反応する。
“仙腸関節不安定性が腰痛の病態になる”という共通言語が普及することで互いの理解が深まると考える。
仙腸関節障害は以下で発生し易いといわれている。
- 出産後の女性
- 女性アスリートで片脚に荷重負荷をかける様な種目の選手
(例えばサッカー) - 腰椎すべり症などで下位腰椎の固定術を受けた人
(仙腸関節が代償的に過剰なモビリティーを要求される) - 尻もちをついたり、躓いたりなど、何らかの外力を受けた直後から発生した仙腸関節周囲の痛み
※仙腸関節は靭帯による支持が強いので、エストロゲン、レラクシンなどホルモンの影響を受け易いと考えられている。
※このため、生理・妊娠を経験する女性に多い機能障害とされている。
仙腸関節障害を示唆する有力な所見
PSIS(上後腸骨棘)付近に限局した疼痛を訴える(示指1本で疼痛部位を示せる:ワンフィンガーテスト)場合は、仙腸関節障害な可能性が高いとされている。
http://nice-senior.com/doc/3622/より画像引用
PSIS(上後腸骨棘)より内側から尾側にかけての部位に疼痛が出現しやすい。
「ワンフィンガーテスト陰性=仙腸関節機能障害が否定できる」では全くないが、
「ワンフィンガーテスト陽性=仙腸関節障害を疑ってみる」というのには役立つ指標だ。
皆さんも一度は、この部位に疼痛を訴える症例を見たことがあるはず。
ぜひ仙腸関節へアプローチしてみて下さい。
仙腸関節機能不全がある時、疼痛は下肢まで広がりを見せることがある。
仙腸関節機能不全患者ではない腰痛患者においても同様である。
では仙腸関節機能不全である腰痛患者、そうではない腰痛患者では何が違うのか?
仙腸関節機能不全患者はPSIS下に疼痛が強いという疼痛強度の違いである。
これは腰痛患者におけるダブルブロック試験により認められた(van der Wurff 2006)
仙腸関節の機能障害に対する評価
仙腸関節に関しては、以下の様な多彩な評価方法が存在している。
- 仙腸関節の静的触診(位置の評価)
- 長座位検査/下肢長検査(long sitting test/leg length test)
- 仙腸関節の動的触診
(特定の動作をしてもらい、その際の仙腸関節の動きを評価する) - 仙腸関節の関節副運動検査
- 仙腸関節の疼痛誘発テスト
・・・・・・・・・・・・・・などなど。
そして、これらの評価方法の中には、メジャーなものからマイナーなものまで非常に多くの種類が存在し、それぞれの学派で解釈が異なっていたりするものもあり、混沌としている。
そんな仙腸関節の評価の中で、以下のリンク先では比較的優秀な評価方法として「仙腸関節の組み合わせテスト」を紹介しておく。
※ただし、絶対的な評価方法が無いからこそ多くの評価方法が存在しているわけなので、この「組み合わせテスト」が全てではない点には注意してもらいたい。
また、症状の原因が仙腸関節かの判断は、これら多彩な評価によって実施していくことになるが、それ以前に知っておいて損はない知識として、「性別・加齢による仙腸関節の可動性の推移」が挙げられる。
具体的には、前述したように仙腸関節は(他の関節と同様に)女性のほうが関節副運動が大きい。
また、加齢とともに(一般論として)骨癒合が起こりやすくなる。
これらの事から、「男性でなおかつ高齢なクライアント」は仙骨腸関節の問題ではない可能性は念頭に入れておいても良いかもしれない。
いずれにしても、骨癒合が起こっている場合においては、関節副運動テストで動きが見られない場合もあり得る。
以下は仙腸関節の骨癒合と年齢を示した表である(Sashin 1993)
年齢 | 強直 | |
男性 | 女性 | |
60ー69歳 | 78% | 29% |
70ー79歳 | 80% | 23% |
80歳以上 | 100% | 20% |
文献によってパーセンテージはマチマチだが、「女性は生涯にわたって骨癒合率は低い」「男性は(元々関節副運動が少なく)加齢とともに骨癒合率が高くなる」という点では一致している。
仙腸関節が原因な痛みへのリハビリ(理学療法)
仙腸関節機能障害に対する治療は確立されていない。
そんな中で、医療機関では以下に挙げる様々な対処法がなされ、好奏する場合もある。
- 仙腸関節のブロック注射
- 消炎鎮痛剤の投与
- 骨盤ベルト(いわゆるコルセット)の処方(あるいは提案)
また、リハビリ(理学療法)としても仙腸関節障害に対して様々な治療概念が存在している。
- 徒手療法(関節モビライゼーション・AKA-H・METなど)
- 運動療法(スタビライゼーションエクササイズなど)
- テーピング(固定ではなく固有感覚受容器の刺激などが目的
- 日常生活指導
・・・・・・・・・・・・・・などなど
仙腸関節を直接的にターゲットとした徒手療法の目的は、適切な関節包内運動の獲得にある。
一方で、仙腸関節の不安定性によって生じている機能障害の場合は、徒手療法による効果は得られたとしても持続性に乏しい場合がある。
したがって、複数回繰り返すことによって起こる持続的効果に期待することに加えて、骨盤を固定するようなコルセットの提案がなされる場合がある(絞め付ける作用で鎮痛を認める場合がある)。
ここからは、仙腸関節機能障害に対するリハビリ(理学療法)の中でも、「比較的実践しやすい試験的治療」を中心に記載していく。
仙腸関節に対する試験的治療(モビライゼーション)
仙腸関節のリハビリ(理学療法)は様々なものが存在するが、複雑な手法は文章による表現が不可能なため、ここでは試験的治療として、比較的誰でも実践可能なモビライゼーションを選択して記載する。
※ただし、慎重に実施する必要あり。
※「腸骨のインフレア・アウトフレア」・「仙骨の位置異常(側方傾斜・回旋など)」などに対するリハビリ(理学療法)は割愛する。
まず、試験的治療のおさらいとして「(問診などで、ある程度治療手技の的を絞った後に)疼痛が誘発される動作を確認し、それをベースラインとしてメカニカルな刺激を加え、その刺激の反応によって症状の原因を推論していく」ということに用いられる。
まぁ、分かりやすく言うと(ある程度、治療手技の的を絞った後に)とりあえずモビライゼーションを施行してみて、反応(良い反応・悪い反応・変化なしのいずれであっても)を基に様々な推論をしていくという事になる。
ここでは、仙腸関節に限局した痛み(+αとして下肢症状を有している場合も含む)を有しているケースを基に考えてみる。
※仙腸関節に症状が無く関連痛のみな場合は、本当に関連痛なのか、他の要因なのかを評価する必要があり、ややこしいので割愛する。
まずは、効果判定に活用するベースラインを把握しよう
まずは、その痛みが「どの様な時に誘発されるのか」を聴取する。
そして、実際に動作をしてもらい症状を再現してもらう(それがベースラインとなる)。
例えば以下の様な発言が返ってくるかもしれない。
①体幹を前屈or後屈すると痛い(痛みの強度が強い、鋭痛な要素を含んでいる)
②長時間、同一姿勢(立位や座位など)を保持するとジンジン痛い
③常にジンジンする(実際には24時間持続していることは稀だが、とにかく疼痛を有している時間が長い)
※②の場合は、もしかするとベースラインになり得ないケースもあるので、他に誘発されそうな動作を試してみて、それをベースラインにして試験的治療を行うという方法もある。
※それぞれにブロッキングな可能性、特定方向への関節副運動が低下している、あるいは不安定性を有しているなど様々な可能性があり、それらは他の複合的な評価を組み合わせながら臨床推論していく。ただし、ここでは評価や臨床推論は割愛して試験的治療のみ記載していく。
腸骨前方回旋モビライゼーション
今回試験的治療として紹介するのは、別記事「仙腸関節検査の精度を上げる方法」でも記載した、「腸骨の前方回旋方向の刺激を活用した疼痛誘発テスト」を関節モビライゼーションに応用する考えである。
※例えば、腸骨後方回旋で疼痛が誘発される場合に、前方回旋モビライゼーションが適用になる事がありかもしれない。
以下はゲンスレンテストなのだが、(これで疼痛が誘発される症例がいる一方で)治療として採用できる症例もいるということ。
※ゲンスレンテストは、疼痛誘発テストであると同時に、試験的治療としても活用出来る。
※下肢の自重で腸骨前方回線の刺激が入力されるため、オーバープレッシャーはほとんど必要ない(むしろ、まずは試験的治療なので愛護的に実施すること)。
※「腸骨前方回旋モビライゼーション」に関しては、もう少し丁寧な徒手的操作法(側臥位)もあり、そちたの方がオススメなのだが、この動画は簡易版となる。
もし、右仙腸関節に症状があるのであれば、右下肢をベッドから降ろして腸骨後前回旋方向への刺激をじんわりと加えていく。
数回実施し、ベースラインとして聴取した疼痛に変化が起こるかを確認する。
※③の場合、あるいは②で(どちらかというと)座位姿勢の持続で痛みが出てくる人に反応し易い。
※①の場合は、刺激の入れ方に注意して慎重に実施すること!
※ベースラインの疼痛がベースラインとなるものの、効果がある人は施行中から何らかの変化(ジンワリと痛みが和らいできているなど)を感じていることも多いので、施行中も声掛けをして反応を確認してみるのも良い。
この手法は、セルフエクササイズとしても実践できるので、実際に仙腸関節の痛みで悩んでいる人も、試験的治療として試してみてほしい。
※効果がありそうで、尚且つ刺激を強めたい場合はパートナーにオーバープレッシャーを愛護的にかけてもらったり、つま先を床に近づけような筋収縮(股関節伸展⇒殿筋群の収縮)を活用してみてほしい。
※ただし、(病態によっては)長期的な効果が期待できないケースもあり、その場合は、日常生活にも留意する必要がある。
※ゲンスレンテストに関しては以下の記事でも詳細を解説し得いる。
仙骨のニューテーションorカウンターニューテーション
補足として仙骨に対するカウンターニューテーション方向への関節モビライゼーションが効果的な場合がある。
※関節不安定性であればAKAが即時的変化として現れやすい場合もある。
ただし、(腸骨の後方回旋モビライゼーションと比べて)こちらは評価を十分にしないと症状を悪化させる可能性がある(特に関節不安定性)ので、補足程度に捉えておいてほしい。
方法は、カウンターニューテーション方向へ可動させるだけだが、詳細は多くの書籍にいくつかのバリエーションが記載されていると思うので割愛する。
でもって、ここでは「そもそも、ニューテーション・カウンターニューテーションって何なの?」というイラストを以下に示す。
~画像引用:カパンジー機能解剖学 III ~
以下が仙骨のニューテーション(Nutation:うなずき運動)となる。
右イラストの方が、仙骨がうなずいているのをイメージしやすいと思われる。
以下が、仙骨のカウンターニューテーション(Counter nutation:起き上がり運動)となる。
「うなずき運動の逆」とイメージしてほしい。
以下の動画は、腸骨も含めて3次元的に動いているが、この記事ではニューテーション・カウンターニューテーションしか述べていないので、とりあえず仙骨の動きだけ観察してイメージしてみてほしい。
ちなみに、「腸骨後方回旋・前方回旋」「仙骨のニューテーション・カウンターニューテーション」というのは、仙腸関節の運動を腸骨・仙骨のどちらで表現しているかの違いであって、起こっていることは同じである。
例えば「仙骨のカウンターニューテーションを起こす」といことは、相対的に「腸骨の前方回旋が起こる」ということを意味する。
※ただし、仙腸関節の動きは複雑なので、必ずしも仙骨への徒手的刺激(例えばニューテーション方向への刺激)と、腸骨への徒手的刺激(例えば腸骨後方回旋方向への刺激)がイコールではない点(全く同じ動きを引き出せているということを意味しない点)には注意する。
※あるいは、(動画でも分かるように)仙腸関節は3次元的な動きを有しており、「仙骨への治療手技でしか再現できない刺激」や「腸骨への治療手技でしか再現できない刺激」などが存在する。
(例えば、仙骨の左右どちらかの下外側角へ刺激を加えることで、純粋なカウンターニューテーションではなく、仙骨の回旋を伴いながらのカウンターニューテーションの動きを引き出すことができるが、この様な動きは腸骨側への刺激では難しい)。
テニスボールでトリガーポイントへの刺激?
また、「冒頭でPSIS付近に疼痛が生じやすい」と前述したが、②③のケースでは、この部位にトリガーポイントが形成されていることがある(押すと放散する程度な過敏な痛み)。
そのトリガーポイントを、押圧すると即自的効果が得られる場合がある。
※②③のケースで効果が得られる場合がある。
ただし、トリガーポイントにおける過敏性はピンキリなので、「痛気持ち良い」ではなく「不快な痛み」が起こるのであれば実施しないこと!
トリガーポイントへのアプローチが有効な場合において、テニスボールなどを用いたセルフアプローチも推奨するかどうかは議論の余地がある。
即自的な効果が得られる反面、テニスボールに骨盤を押し付けるため、(不安定性が原因であるならば)長期的には機能障害を助長してしまう可能性がある(なので、すすめるのであれば、この点も説明してあげたほうが良い)。
筋筋膜性腰痛におけるマイオセラピーと同様に「実施している際にいた気持ちよく感じ、実施後はジンジンしていた痛みが(一時的かもしれないが)スッキリする」といったことを期待して実施することとなる。
※ネット上でも「仙腸関節 テニスボール」などと検索したら、色々出てくるので調べてみてほしい(それらの方法が正しいと言っているわけではないが、参考になるものもあるかもしれない。
※わざわざテニスボールを使用しなくとも背臥位で握り拳を臀部の下へ敷いても刺激できる。
関連記事⇒『トリガーポイント治療(マイオセラピー)を解説!』
姿勢指導と骨盤ベルトの活用
また、原因が関節不安定姓である場合は、姿勢の指導及び、同一姿勢を長時間保持しつづけることは避け、原因組織の疼痛閾値を上げることが重要となる。
そのためには骨盤帯ベルトは保存療法として重要となる。
骨盤ベルトによって明らかに症状が改善する場合がある。
骨盤ベルトによる鎮痛機序に関しては、単なる「仙腸関節の固定(完全な固定は不可能だが)」に加えて、仙腸関節の圧迫によって固有受容器が刺激され、何らかの神経生理学的効果が起こっている可能性もある。
例えば、仙腸関節障害の評価の一つとして、『自動下肢伸展拳上(ASLR:active SLR)』を応用する方法がある。
手順は以下の通り。
①股関節30°屈曲程度のASLRを患者に実施してもらう(左右ともに実施)
②ASLRで下肢を挙上した際に、どちらの下肢の方が重かったかを教えてもらう。
③療法士は骨盤を圧迫する力を加えた状態で、患者に「重かった側の下肢のASLR」を再度実施してもらう。
圧迫の方法は以下の2パターン
・左右のPSIS付近をサンドすることで、仙腸関節への圧迫力を加える。
・左右のASIS付近をサンドすることで、仙腸関節への圧迫を加える。
④それぞれの圧迫を加える前後で下肢の重みに変化(軽くなった)が起こったか確認する。
上記は仙腸関節障害の評価手法であるが、このテストは「圧迫によって仙腸関節障害に何らかの変化が起こること」を示唆しているので、同様な理由で骨盤ベルトが有用な可能性がある(っというか実際に変化が起こる症例がいる)。
また、骨盤ベルトによって仙腸関節が絞め付けられることで、仙腸関節に意識が向くことになる。
そのため、仙腸関節に生じる機械的ストレスを避ける動作が上手になるなどの効果も生む。
※繰り返しの機械的ストレスは仙腸関節障害の遅延化を招くので、動作に留意することは非常に重要となる。
※もちろん心理的な効果もあると思われる。
関節不安定性は、②③のどのケース(で特に女性)において骨盤ベルトを試してみる価値はある。
試験的治療として、骨盤帯ベルトを巻くよりも簡易な手段として、徒手的に骨盤を絞め付けて動作をしてもらうという方法もある。
例えば、歩行時に「仙腸関節が痛い」などの訴えがある場合は、療法士が後方から骨盤を徒手的に圧縮刺激を加えた状態で歩行してもらうなど。
骨盤ベルトのようにはいかないが、関節不安定性の要素が強いケースでは、その程度の刺激でも鎮痛反応が現れる場合がある。
これで、ベースラインである痛みが軽減することがあったりもする。そういう場合は、骨盤ベルトをすすめてみる。
※「こちらが徒手的に操作を加えた上での動作」という意味ではマリガンコンセプトは参考になるので興味があれば学んでみてほしい。
重複するが、骨盤ベルトのまとめは以下となる。
- 骨盤ベルトは上記のように関節不安定性による症状を低減させる可能性がある
- 骨盤帯における様々な軟部組織の固有受容器を刺激するため神経生理学的効果が生まれている可能性がある。
※腹横筋や多裂筋への刺激も含む - 骨盤帯に過剰な負荷が加わる動作を無意識にしようとした際に、それを抑制してくれる効果もある(完全に仙腸関節を固定することはできないが、敢えてダイナミックに動かそうとしない限りは、多少の固定効果はある)。
一方で、骨盤ベルトは全ての仙腸関節障害に適用というわけではない。
例えば、特定の方向へ過少運動性を有している場合や、ブロッキングしていることによる症状は、骨盤ベルトでは何ら解決にならないかもしれない。
ブロッキングとは?
ブロッキングに関しては明確な定義づけはなされていない。
それら様々な解釈の一つとして「関節の遊び(ジョイントプレイ)の制限または喪失を伴った生理学的可動域内の可逆的な過少運動性関節機能不全」というものがある。
また、「特定の方向への制限があるもの」を過少運動性、「すべての方向へ制限があるもの」をブロッキングと呼ぶ場合がある。
でもって、このブログでは後者の意味で表現している。
※ブロッキングは、急激な外力が加わった際に起こることがある。
※例えば高齢者が尻餅をついて仙骨(あるいは坐骨など)に急激な外力が加わり、それ以降に続く仙腸関節の痛みなどの中には、ブロッキング(腸骨後方or前方回旋変位などなどの変位を起こした状態を含む)が起こっている可能性もある。
つまり「仙腸関節由来の痛み=骨盤ベルト」ではなく、「評価をした上で適応と判断されるケースがある」といった感じ。
残念ながら、仙腸関節のみを直接つないでいる単関節筋は存在しないため、骨盤帯ベルトのような外部からの刺激のほうが「対処療法としての問題解決」に向いている場合が多い。
一方で、痛み閾値を下げないレベルの運動療法を選択して実施することは、筋萎縮・循環不全・不使用による感作の予防に役立つ。
あるいは長期的な視点で考えた際に、日常生活指導に加えて、様々なリハビリ(理学療法)が重要となってくることも多い。
仙腸関節への予防的リハビリ(理学療法)
また、運動療法として以下も重要となる。
- インナーマッスルの強化
- 仙腸骨にストレス刺激を加える可能性のある筋のタイトネスを改善する(ストレッチングなど)
インナーマッスルに対するリハビリ(理学療法)
仙腸関節障害を呈する者は立位での股関節伸展運動を行う際に内腹斜筋、多裂筋、大殿筋の活動開始タイミングが遅れているとの報告がある。
大殿筋に関しては、(仙腸関節のみを跨ぐ単関節筋ではないものの)仙腸関節を跨ぐような走行をしているため剛性に影響を及ぼす可能性はあり、仙腸関節を支持する仙結節靭帯にも付着するため、その収縮により仙結節靭帯の緊張が高まることによっても(間接的に)仙腸関節の安定化に寄与するとの考えもある。
また、多裂筋や腹横筋に関しては以下の様な考えがあり、これらは「インナーユニット」として腰椎骨盤領域を支持するコルセット用の力を生み出すとされているため重要と思われる。
- 多裂筋は深部線維が収縮して筋が膨隆することによって胸背筋膜をパンプアップさせて緊張を高め、それによって仙腸関節の安定性を得ている。
- 腹横筋も両腸骨に付着し、収縮によって仙腸関節を安定させる作用を持つため、腹横筋の適切な収縮作用は仙腸関節障害の改善に有効である。
関連記事
⇒『骨盤底筋の重要性とは?』
筋のタイトネスに対するリハビリ(理学療法)=ストレッチングなど
前述した大殿筋などは弱化する可能性もあれば、反射的短縮を起こしている場合もある(その両方を呈している場合もある)。
あるいは梨状筋も反射的短縮を起こしており、二次的な機能障害も起こしている可能性がある。
特に梨状筋に関しては仙腸関節機能障害との因果関係が言われており、梨状筋に対するストレッチングや横断マッサージ、マイオセラピーと言った軟部組織モビライゼーションで症状が軽快する場合も多い(前述したテニスボールを用いた梨状筋への圧迫もセルフエクササイズとしておススメできる)。
関連記事⇒『梨状筋症候群に対するストレッチング』
徒手療法として仙腸関節と筋タイトネスの因果関係で例に出され易い筋は「大腿直筋」と「ハムストリングス」ではないだろうか?
以下のイラストは、ハムストリングスや大腿直筋のタイトネスが腰痛に関与してしまう可能性を示したものだが、これらが仙腸関節にも影響を与える可能性が言われている(あくまで理屈上の考えではあるが)。
(ASISに付着している)大腿直筋のタイトネスによって仙骨のカウンターニューテーション(相対的に腸骨の前方回旋)が強調され、仙腸関節に回旋ストレスが生じる。
逆に、大腿直筋の収縮を利用して、腸骨前方回旋モビライゼーションを実施するという考えもある。
関連記事⇒『マッスルエナジーテクニックとは?』
(坐骨に付着している)ハムストリングスのタイトネスによって仙骨のニューテーション(相対的に腸骨の後方回旋)が強調され、仙腸関節に回旋ストレスが生じる。
逆に、ハムストリングスの収縮を利用して、腸骨後方回旋モビライゼーションを実施するという考えもある。
例えば、足が躓いた際に、瞬間的に股関節伸展(+若干の膝屈曲)が大腿直筋を介して腸骨の前方回旋を起こし(仙骨ではカウンターニューテーションが起こり)その刺激で仙腸関節機能障害が起こることがある。
(急激な外力によって、前述したブロッキングに陥ることもある)
その場合は、腸骨後方回旋モビライゼーションや仙腸関節ニューテーションの刺激を愛護的に実施することが効果的な場合がある)。
※ブロッキングの場合は、筋収縮を利用した関節モビライゼーション(METなど)ではなく、グレード3による関節モビライゼーションを慎重に実施したほうが改善が得られやすい(疼痛の程度にもよるが)。
腸骨の前方回旋変位は上記な特殊な環境、あるいはアスリートを除いて一般的ではないとされている。
※あくまで一つの考え。
※この考えは問診時にあたりをつけるだけであり、実際には評価したうえで治療内容を決定する(あるいは試験的治療を試みたうえで推論が正しいか決定する)。
あるいは、大股で歩く環境、あるいは不適切な前屈動作(膝を伸ばしたままでの体幹前屈動作)の繰り返しが、ハムストリングスを介して、腸骨の後方回旋を起こし(仙腸関節ではニューテーションが起こり)その刺激で仙腸関節機能障害が起こることがある。
※前述した腸骨の前方回旋変と比べて一般的。
※いわゆる不良姿勢を呈した人でも起こり易いとされている。
解剖学的な大腿骨頭窩と、腰仙関節(脊柱が仙骨に乗っかる場所)の位置関係からも、こちらの機能異常のほうが起こりやすいとされている。
~画像+文章の引用:カパンジー機能解剖学 III ~
したがって,仙骨はうなずき運動の方向『N2』に拘束される。
この連動は、前方仙腸靭帯あるいはうなずき運動のブレーキ、とりわけ2つの仙坐骨靱帯(仙棘靭帯と仙結節靭帯)によって制限され、仙骨先端が坐骨結節に対して開大するのが阻止される。
股関節のレベルで大腿骨から加わる地面の反動力『R』は仙骨に加わる体重とともに回旋の連携を形成し、腸骨を後方へ傾斜『N1』させる傾向がある。
この骨盤後傾は仙腸関節レベルのうなずき運動をさらに増強する。
要は、赤矢印(仙骨に加わる力)に対して青矢印(腸骨に加わる力)が腹側にあるため、腸骨後方回旋方向(相対的に仙骨はニューテーション方向)の力が加わりやすいという、あくまで理屈上の話。
その場合は、腸骨前方回旋モビライゼーションや仙腸関節カウンターニューテーションの刺激を愛護的に実施することが効果的な場合がある。
※その他、仙腸関節への機械適刺激を低減するような動作指導、骨盤を絞め付けるようなサポーターなどの活用・インナーマッスルのトレーニングも有効となる。
少し「予防的なリハビリ(理学療法)から外れた蛇足になってしまったが、これら「大腿直筋」「ハムストリングス」の例からも、関節に対する直接的なアプローチのみならず、その関節に影響を及ぼす筋群のタイトネスに対するリハビリ(理学療法)も重要となってくる。
仙腸関節障害の診断とブロック法
医師が実施する「仙腸関節の診断とブロック法」が掲載された動画を以下に記載しておく。
後半のブロック法は医師の範疇なので実施できないが、前半の動画は視覚的に仙腸関節を理解しやすいのではと思う。
この記事の内容と類似している点もあれば、この記事を補完してくれる情報も含まれているので、是非一度(前半の映像だけでも)観覧してみてほしい。
仙腸関節以外にも目を向けよう
リハビリ(理学療法)では、他部位との関連性にも着目する必要がある。
例えば、冒頭の「仙腸関節障害が発生しやすい例」として、『女性のアスリートで片脚に荷重負荷をかける様な種目(例えばサッカー)の選手』を挙げた。
ただし、これと似たようなことは日常でも起こる。
例えば、右股関節に痛みが出現した場合、その痛みを回避するために、左下肢へ優位に荷重するような活動が行われる可能性がある。
すると短期的には右股関節痛は低減される可能性があるが、その様な戦略をとり続けていると、次第に左下肢にも影響が及んでくることがあるかもしれない。
そんな影響の一つとして股・膝関節の機能障害とともに「仙腸関節の機能障害」もあげられる。
そうなってくると、(左仙腸関節に着目すると同時に)右股関節の機能障害にも着目する必要があると言える。
もう少し分かりにくい例だと、不良姿勢・腰痛による代償姿勢などが原因となって起こる活動のクセなども仙腸関節の機能障害につながっていしまう可能性があったりする。
要は、仙腸関節に着目するとともに、「なぜ仙腸関節の機能障害が起こったのか」を考え、他部位とも関連付けてリーズニングしていかなければ問題が解決しないこともあり得る。
仙腸関節障害の関連記事
この記事では、仙腸関節モビライゼーションにも言及しているが、四肢関節のモビライゼーションについて知りたい方は以下の記事内にあるリンク記事で深堀しているので、こちらも参考にしていただきたい。
また、仙腸関節は関連痛として腰部や下肢へ痛みを誘発してしまうことで知られているが、そんな関連痛について深堀した記事が以下になる。
関連痛の機序における仮説や、検証で分かっていることなどを知りたい方はチェックしてみてほしい。
仙腸関節障害の治療として、理学療法士・作業療法士の間ではAKA博田法が有名だと思う。
そんなAKA博田法と関節モビライゼーションの違いを以下の記事にまとめたので、興味がある方は観覧してみてほしい。
以下は仙腸関節モビライゼーションが著効を示した症例について記載している。
⇒『【仙腸関節モビライゼーション】腸骨の前方回旋モビライゼーションが著効を示した症例について』
仙腸関節障害の関連痛によって腰痛が起こる事がある。
従って、仙腸関節障害の理解を深めるためには、他の腰痛疾患についての理解を深めておくことは有意義である。
そんな「腰痛に関連する疾患」の基本的な考え方をまとめた記事一覧が以下になる。
⇒『椎間板ヘルニアの対処法』